顔面神経麻痺に対する鍼灸治療
顔面神経麻痺とは?
顔面神経麻痺とは
顔面神経麻痺は、顔の筋肉が動きづらくなる病気です。以下のような症状が見られます。
- 顔が歪む
- 眼が閉じにくい
- 水が口からこぼれる
- 口の動きが悪くなる
年間、人口10万人あたり50人ほどが発症し、そのうち2割以上に後遺症が残ります。そのため、毎年約1万人が顔面神経麻痺の後遺症に苦しんでいます。
顔面神経の仕組み
顔面神経は「顔の動きに関係する神経」で、12対ある脳神経の7番目に位置します。顔面神経の経路は以下の通りです。
- 脳の顔面神経核から始まる
- 内耳道、顔面神経管を通る
- 茎乳突孔から頭蓋の外に出る
- 耳下腺を通り、顔面の筋肉に向かう
この経路のどこかで障害が起こると顔面神経麻痺が発生します。頭蓋から出た後は5つの枝に分かれるため、障害の場所によって麻痺の範囲が異なります。
顔面神経麻痺の原因
顔面神経麻痺の原因は多岐にわたります。主な原因は以下の通りです。
特発性/Bell麻痺(70%)
発生率:10万人あたり10~40人
原因:ウイルス感染
症状:片側の顔面神経麻痺
回復:1年かかることがあり、13%の患者に症状が残り、10%で再発する可能性
-
Ramsay-Hant症候群などのウイルス性(4.5〜7%)
原因:ヘルペスウイルスによる帯状疱疹
症状:顔面神経麻痺、めまい(40%)
回復:1年以内に回復するのは21%細菌感染
原因:急性中耳炎、外耳炎、ライム病(マダニによる細菌感染)腫瘍(2.2〜5%)
原因:耳下腺腫瘍、顔面神経腫、聴神経腫、髄膜腫、くも膜下槽など
症状:発症がゆっくり進行する場合は悪性腫瘍の疑い外傷(10〜23%)
原因:側頭骨の骨折、耳下腺の手術
症状:「額に皺を寄せられない」「目を閉じられない」「口から水が漏れ出る」「音が耳に響く」「味覚低下」「涙の減少」
顔面神経麻痺の現代医学的治療法
主な治療薬
- ステロイドホルモン剤:神経の炎症やむくみを抑える。
- 抗ウイルス剤:単純ヘルペスウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルスの増殖を抑える。
これらの薬は、発症後3日以内に使用しないと治療効果が下がるため、発症したらすぐに耳鼻咽喉科を受診することが重要です。治療を開始しても、発症後1週間は進行し、10日目頃に最も悪化します。
重症の麻痺
- 顔面神経管開放術:耳の手術で、耳の後ろから顔面神経が通る骨の管を削り、むくみで圧迫された神経の負担を軽減します。手術の効果は徐々に現れます。
顔面神経麻痺の後遺症
- 病的共同運動:口を尖らすと目が縮み、目を閉じると頬がひきつれる。
- 顔面けいれん:顔がピクピク動く。
- 拘縮:顔がこわばる。
- ワニの涙:食事をすると涙目になる。
- 耳鳴り:耳の筋肉のけいれんによる。
後遺症は発症3カ月後から1年間進行し、その後固定します。一度麻痺が治った場合でも、後遺症が現れる可能性があるため、発症後1年間は注意が必要です。
治療のポイント
原因の特定:原因が分かればその治療を行い、麻痺に対する治療を早期に開始することが重要です。
急性の顔面神経麻痺:ベル麻痺やウイルス性の麻痺には、ステロイドと抗ウイルス剤(ゾビラックス)を早期に使用します。
回復期間:軽症の場合は2~4週間で回復します。重症の麻痺でもステロイドの大量点滴で回復することが多いですが、完治する率は100%ではありません。
難治性の麻痺
顔面神経減荷術:2~3カ月経過しても回復の兆しがない場合は、手術療法を検討します。この手術は、耳の骨を削り、顔面神経を露出させて腫れを改善し、麻痺の回復を助けます。手術は全身麻酔で行われ、2週間程の入院が必要です。
顔面神経麻痺に対する鍼灸治療法
顔面神経麻痺に対する鍼灸治療法は、顔の筋肉の動きに影響する神経の機能障害に対処します。鍼灸治療により痛みなどの症状の軽減や改善ができます。
顔面神経麻痺に対する鍼灸治療では、以下の二つを同時に行います。
①根本的な生命力を上げる
すべての病気は生命力の低下によって引き起こされます。顔面神経麻痺も生命力の低下が原因と考えられます。鍼灸治療では、生命力を高める施術を行います。顔面神経麻痺の場合、顔や頭部にツボの反応が現れることが多いです。これらの反応を調整しながら治療を進めます。
②生命力を低下させる要因を取り除く
生命力を低下させる要因も同様に重要です。古傷や生活環境などが生命力を下げる原因となります。古傷の場合、鍼灸により瘀血を排出させることで痛みの要因を取り除きます。また、生活環境に関しては、問診を通じて日々の生活状況を詳しく把握し、原因を特定して改善します。
以上のように、顔面神経麻痺の鍼灸治療では、生命力の向上と低下要因の除去を並行して行います。